【映画の感想】バジュランギおじさん

旅の合間

【映画の感想】バジュランギおじさんと、小さな迷子




見ようと思いつつ随分先延ばしにしてしまって、やばい、終わってしまう!と慌てて行ってきた(笑)
とっても温かい気持ちになれる、素敵な映画でした。

生まれつき声の出せない6歳のイスラム教徒の少女シャヒーダーは、母親に連れられてパキスタンからインドのデリーにあるニザームッディーン廟へ祈りに行くが、帰国途中で母親とはぐれ、一人インドに取り残されてしまう。呆れるほど馬鹿正直でお人よしの熱狂的ヒンドゥー教徒パワン(通称バジュランギ)とシャヒーダーが偶然出会い、お人よしのパワンは身元の分からない少女を捨て置けず、助ける事に。
シャヒーダーが喋れないので、初めのうちは宗教も国籍も分からず、当然インド人でヒンドゥー教徒と思って助けていたが、途中でパキスタン人のムスリムだと判明する。
パワンは婚約者の家に居候(?)中で、結婚を認めてもらう為に職探しとお金を貯めている最中。厳格なヒンドゥー教徒で反パキスタン感情の強い婚約者の父は、シャヒーダーを家に置くわけにはいかないと言い、パワンはシャヒーダーを両親のもとへ返す旅に出る。

パワンとシャヒーダーの心が通い合っていく様や、パワンの婚約者ラスィカーとのやり取り、道中で出会うパキスタンの人々との出会いや交流…全てがとても温かく描かれていて、観た後、本当に優しい気持ちになれる映画だった。
観る前は長ったらしい邦題だなって思ったんだけど、よかったと思う。原題は「Bajrangi Bhaijaan≒バジュランギ兄さん?」と邦題よりややシンプルだけど、「バジュランギ」と言われても何もイメージできない日本人には、少し説明が追加されたくらいが丁度いい。「おじさん」ってとこ、映画的に結構ポイント。ちなみにバジュランギは、「ハヌマーン信者」みたいな意味があるらしい。
以下、ネタばれあるのでご注意を。とは言え、シンプルなストーリーなので、結末を知っても話の面白さに影響は無い気がするけれど。

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物語の魅力の一つは、パワンの人柄。本当に「馬鹿正直」って言葉がぴったりくるタイプで、現実に身近にいたら正直私はいらつくと思う(笑)
とにかく真っすぐで、容量の悪いタイプで、映画の冒頭で自分の生い立ちというか、半生を語るんだけど、留年・落第のオンパレードで、ダメっぷりが酷い(笑)登場シーンはキレッキレのダンスなので、そういうふうに見えなくて、ちょっと違和感あったな。
そのパワンが、戸惑いつつ、不器用ながらも少女を助け、心を通わせる様に素直に感動した。ダメダメでちょっと間抜けなパワンが、少女の事となるととても強く「やる時はやる」のも良い。パワンのキャラが違ったら、もっと違った印象の映画になったと思う。
ただ、途中まではあくまで「堂々と」と言っていたのに、パキスタン人記者のナワーブと出会ってからは結構逃げたり隠れたり。正直、ちょっとキャラがぶれている感じがしなくも無かったけど、少女やパキスタンの人たちとの出会いがパワンを変えたと見る事も出来る…かな??それにしても、最終的に変わるならパキスタン入国の際の「堂々と」はやり過ぎでは?

パワンの婚約者ラスィカーの存在も、とても魅力的で良かったな。何をやっても不器用でダメダメのパワンだけど、とにかく正直で優しくて、そんなところが好きなんだろうな…。パワンを見る目が凄く優しいんだよね。
自分たちの結婚のかかった大事な時期に身元不明の少女を連れてきちゃったり、ビザもパスポートも無いのにパキスタンに連れていく!って言い出しちゃったり。ラスィカーと結婚はしたいけど、シャヒーダーを放ってはおけない。ラスィカーはそんなパワンが好きなんだよね。
というかラスィカー自身芯が強くとても優しい女性で、シャヒーダーがムスリムだと知って怯むパワンを叱ったり、何よりも今はシャヒーダーが両親に会える事が重要だと繰り返しパワンに伝えたり。パワンとは本当にお似合いに見えた。
どこかで見た顔だなと思ったら、「きっとうまくいく」でランチョーの恋人のピア役やってた人だ。破天荒男×しっかり者の彼女で、ちょっと似た役どころだな。

「小さな迷子」シャヒーダーが本当に本当に可愛くて、笑顔にめちゃめちゃ癒される。とにかく可愛い。セリフがほぼ無いのだけど、表情とか、手の動きとかで、コミカルなシーンもシリアスなシーンもきちんと演じ分けてるの凄い。声が出ないもどかしさとか、異国の地に一人取り残された寂しさとか、きちんと伝わってきて切なくなる。
初めは自己主張が無く、イマイチ何考えてるか分からない場面も多いんだけど、後半になるにつれパワンの手を引っ張ったり、色々主張するようになっていくのも良かったな。あととにかくよく笑うから、可愛い。癒し。可愛い。

気付くと旅の道連れになっていて、気付くとパワンと固い信頼関係が出来ているパキスタン人記者のナワーブは、一番観客が感情移入しやすいタイプな気がする。しがないサラリーマン(?)で上司に頭が上がらない生活。記者としてスクープを探す日々。でもパワンの旅の目的を知って、感銘を受け、助ける事にする。パワンみたいに根っから善人ってわけじゃないし、馬鹿正直ってわけじゃない。一番「普通の人」に見えた。だから、「普通の人たち」に言葉を届ける事が出来るんだと思う。パワンが目的を成し遂げる為にはナワーブの助けが不可欠だったんだよ。彼の知恵(パワンから見れば悪知恵)にかなり助けられてるし、最終的にパワンはナワーブにシャヒーダーを託すんだもん。でもナワーブはあくまでパワンをヒーローとして世間に伝えるんだよね。そう思うと「根っから善人」かもしれないな…。
パワンとナワーブ、一緒に過ごすにつれて、ちょっとお互いに相手の性格に似ていってる気がした。

インドとパキスタンの関係が私にはよく分からないのだけど(恥ずかしながら「仲良くないらしい」程度の知識しかなかった)、調べたところまさに「犬猿の仲」らしい。そこに宗教の違いも入るから、結構複雑なんだろうな。
この映画は両国の対立を超えて、宗教の枠をも超えて、愛情が成立する話。初めはモスクに立ち入ることすら拒絶するパワンが、シャヒーダーの為にアッラーに祈り、パキスタンの人たちにムスリム式のあいさつを返す。道中で出会うイスラム神学者(たぶん)は、「モスクは全ての人に開かれている」といって異教徒のパワンを受け入れ、助け、最後にはヒンドゥー教式のあいさつで別れる。

恐らくパワンはこの旅で初めてパキスタンの人々と触れ合ったと思うんだけど、道中「パワンの目を通して見るパキスタン」が新鮮で面白かった。きっと私が直接パキスタンに行って見るのとは、全く違ったものが見えていたと思う。ちょっとした文化や食べ物の違いが面白い。パキスタンでは「ベジ」は一般的じゃないのかな。
道中で出会うパキスタンの人々は、ことさら温かく描かれていた様に思う。「インド人がパキスタン人の少女を助ける話」だから、描き方によってはインド人を一方的にヒーローに仕立てる事も出来ると思うんだけど、あくまでパキスタンの人たちの助けで目的を果たし、パキスタンの人たちの愛によってインドに帰れるんだ。両国間の感情が複雑だからこそ、そこはとても丁寧に、注意深く描いたんじゃないかな。パワンの、イスラム教徒やパキスタンに対する思いははっきりとは口に出さないけれど、表情から、接し方から、旅の前後でガラっと変わったのが分かる。初め、パワン自身はパキスタン人に対してもムスリムに対しても批判は口にしないんだけど、とても友好的とは言えない態度なんだよね。それが、最後には愛をもってパキスタンの人々と接する。同じ人間なんだって。そこがとてもいい。

最初から最後まで泣けるポイント満載で、本当に素敵な映画なんだけど、過度に湿っぽくお涙ちょうだい的に作っていない点もとても良かった。扱っている題材は重いけれど、軽快な音楽や主人公のキャラクターで、エンターテイメントとしてとても面白いものに仕上がっている。映像も全体にカラフルで明るく、美しい。
「インド映画ってよく分かんないところで突然踊りだす、ぶっ飛んだやつでしょ?」って人にも是非観て欲しい。インド映画らしい華やかなダンスシーンもあるんだけど、ストーリーも映像もとても良い。バーフバリよりも万人受けするタイプの映画じゃないかな。

感想書きながら泣きそうだし、もう一度観に行きたい。全然書ききれてないけど、これ以上長く書いても仕方ないからこれで終わる。まだちらほら上映してる劇場はあるので、是非興味のある人は観に行って欲しい。

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