初めにはっきりと断っておくと、私はミュージカル「オペラ座の怪人」が好きで、「ラブ・ネバー・ダイ」の脚本は嫌いです。
けれど、本当に素晴らしい舞台でした。観てよかった。嫌いだけど。
2013年頃だったか、ロンドンで「オペラ座の怪人」を観た時にクリスティーヌ役だったAnna O’byrneが素晴らしかったので、続編「Love Never Dies」のクリスティーヌ役としてDVD収録されていると知って、迷わず買った。そして、非常に後悔した。
「オペラ座の怪人」ファンの多くは「別の物語である」と割り切ってALWの美しい音楽を楽しんでいる様だけど、「オペラ座〜」のクリスティーヌ役だったAnnaがそのままクリスティーヌ役で出演。ロンドンで観た記憶が新しかった事もあって、割り切って楽しむのは無理だった。そもそも音響が良いわけでもない家のテレビでDVDを観たら、音楽や演出よりストーリーに注目がいくのは当たり前かもしれない。
なにもこの作品に限らず、脚本がそれ程好みじゃないミュージカルなんて山ほどある。同じALWの「サンセット大通り」だって、話題になった映画「グレーテスト・ショーマン」だって、ミュージカルとしては好きだけど脚本が好きなわけじゃない。いずれも音楽が本当に素晴らしく、それを聴くだけで観劇/観賞の価値があると思える。
「ラブ・ネバー・ダイ」も音楽は本当に素晴らしい。けれど許せないのは、「オペラ座の怪人」において私が美しいと思っていたポイントをことごとく壊してくれたからだ。
最後にファントムが身を引くのは彼の最大の愛情表現だと思っているし、クリスティーヌとファントムの関係性が観た人の想像に委ねられている点も好きだ。クリスティーヌとファントムは互いに惹かれ合いつつも、それが異性としてなのか、音楽の天使としてなのかは、公式は答えを提示してくれない。そして、2人は別の世界で生きる道を選ぶ。そこが美しいのに…。
一度クリスティーヌの元を去ったのだから、出てくるなよ。女々しいよ。死んだんじゃなかったのかよ。(原作小説と違って、ファントムのその後はミュージカルでは描かれていないけど)
クリスティーヌも、他人との子供を旦那と育ててたって何だよ…。それならそれで墓場まで持って行ってくれよ。ラウルと生きると決めたなら貫けよ。
ラウルも、クリスティーヌを助けにオペラ座の地下まで行った勢いどこ行ったよ。なんで落ちぶれてるんだよ。身を引いたファントムの立場考えろよ。
メグもマダムも、一体どうしちゃったのさ…。登場人物、全員別人じゃん。
何より、ファントムの思う「美」って何だったのさ?顔は醜いけれど、だからこそ、純粋に美しいものへの憧れや渇望があったはず。だからクリスティーヌとその歌声に惹かれたのでは?「天使」を愛していたのでは?
自分は影に潜む存在だからこそ、煌びやかで美しい表舞台に憧れたのでは?
それが何故コニーアイランド???
このミュージカルのお陰で「オペラ座の怪人」の好きなところが再認識できた点は良かったけれど、到底受け入れ難い話だった。
だから前回公演の際には見送ったのだけど、今回は観に行ってみた。生で一度も観ていないミュージカルを「嫌いだ」と言うのもちょっとね。と思って。あとは、いかにもALWらしい美しい音楽を一度は生で聴きたかったのもある。
最初から最後まで、本当に美しく耳に残る音楽ばかりだった。ここまで名曲揃いのミュージカルってなかなか無いのでは。
もともとbeneath a moonless skyが凄く好きで、相当回数聴いていた(音源はシエラとラミンのオペラ座25th記念公演コンビだよ♪)。歌詞は聴いていられない内容なのだけど、曲は好きで好きで、日本語だとその葛藤がより大きくなって聴いてて辛い…。大好きだけど大嫌いだ。
この曲に限らず、とにかくオーバチュアも各歌も、全てが美しかった。歌詞は耳を塞ぎたくなる場面も多かったけれど、音楽が美しくて耳が幸せだった。もしかしたら「オペラ座の怪人」より名曲揃いなのでは?と思うほど、美しい曲ばかりだった。そしてやっぱり、生演奏生歌ってすごく良いね。キャストもみんな歌が良くて、音楽聴くだけでも、価値のある舞台だった。
DVDではあまり気付かなかったのだけど、舞台美術も演出も素晴らしかった。さすが、洗礼されているし、印象に残るシーンの連続。本当にレベルの高い、よくできたミュージカルだわ…。
キャストも素晴らしかった。
市村・濱田ペアはもちろんのこと、みゆちゃんのメグは私の考える通りの可愛らしいメグ・ジリーで、最後の取り乱した芝居もすごく良かった。グスタフ役の大前くんの歌声が本当に素晴らしくて、まさに「音楽の天使」だった。
総合的に、物凄くよくできた、素晴らしい舞台だったと思う。
だからこそ、この舞台を心から楽しめないことが勿体ない。続編という設定の公式二次創作(二次創作とは…)だと思い込もうとしたけれど、随所で流れる「オペラ座の怪人」の楽曲の使い方やタイミングが素晴らしくて、「続編」である事を嫌でも思い出させられる。
素晴らしい舞台を観た感動と、おぞましい物語への憎悪で、観劇後から感情が混乱している。3分おきくらいに、「また観たい」と「二度と観るか」がぐるぐるしている。
あまりによくできた二次創作で、もはやそのクオリティの高さが憎い。
次に機会があったら、きっとまた観に行って、またボロクソ言うんだと思う。
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